【連載】弾き語りのマーケッター(4)「柱の影のおじさん」※フェースブック用ディレクターズカット版
【前話まで】私にはバイトも続かない日々の中「路上の弾き語り」で食いつないでいた時期がありました。300円稼げば御の字の路上で、私がバイトよりも稼いでいや理由は…「マーケティング」のまねごとをしていたからなのでした。そこで学んだことは、ナレーター関連の仕事をはじめた今も、役にたっています。営業やアピールについて、ちょっとでもアイデアの元になれるかもしれないと、この連載をはじめました。
○第1話「はじめに」 http://goo.gl/m37J2
○第2話「お金を入れてくれるのは”誰”か?」 http://goo.gl/eQyJN
○第3話「あたしを泣かせてみなさいよ」 http://goo.gl/rudkZ
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マツコとの衝撃的な出来事があって少ししたころ。僕はいつものようにある駅で弾き語りをしていました。その晩のアガリはすでに2~3千円あったので、最低限ノルマは達成です(税金も払ってない当時は、
1日千円あればじゅうぶんでした)。
無理をすることもなく、自分で好きなフォークソングだけを歌っていました。こうしていても、時々おつりが降ってきます。集中するとうつむくので「降る」という感じがよく当てはまるのです。
そんな中突然。小銭以外のものがごんっとギターケースに放り込まれて僕びっくり。みればぐちゃぐちゃにくるまれたティッシュでした。こうした嫌がらせもよくあるのが路上です。ああ~面倒だな~なんて思ってたんですが、よく見れば、中からちらりとお金がみえたのでした。
重みをつけるための500円玉と、なんと1万円札でした。
ティッシュを広げると、中には『良い声してる。十八番を聴かせて』ときったない字。
僕びっくりして顔をあげるとそれは50前後のサラリーマン。いつも僕が相手にしている「千鳥足おじさん」よりは、小綺麗で、足取りも確かな「ナイスおじさん」。
そのおじさんは目があうと、ささっと15メートルほど遠ざかってアーケードの柱の影に立って、あさっての方向を見ながら煙草を吸い出すのでした。絵に書いたような「知らんぷり感」です。いったいなんなんでしょう^^;
ちなみにそれまでに出会った「路上でお金を出してリクエストしてくる人」の特徴としては。
◉酔って一緒にがなって歌ってきたり(←通行人全逃げです)
◉「伊勢正三のアルペジオはもっと弦を愛撫するようにだな」とかダメ出しをしながらギターをとりあげようとする(←無視するとさらに怒る)
◉スンスン泣き続け、次の曲になっても暗い顔で一点をみつめたまま地縛霊と化す(←通行人の「みてはいけないものをみた」と避けていく感じが忘れられません)
などが普通です。もっとアブナい人も山のようにいましたが、まあ大体こんな感じ。共通点は「…の割にはギャラはお釣りかよ」ってことです。
とにかく「取り憑いてくる」。歌がききたいんじゃない。威張って発散したり、依存相手をみつけたりしたいんでしょうね。他のお客さんはぴたっと来なくなります。でも絡まれたくないので歌い続けるしかなくなりますから「全力で開店休業」という哀しい状況に追い込まれます。夜明けが南アフリカより遠く感じたものです^^;
その点今回のナイスおじさんは、柱のかげに1時間以上前からたっていた人です。ずっと誰か待ってるのかと思ってたのですが…どうも『僕の邪魔をしないようにしてくれてた』とわかりました。隣に来てしまうと、僕がお客さんがとれないことを知っている人のようです。まったくもって真のサポーターでした。
僕はレパートリーの中でも一番綺麗な声で歌える歌を歌いました。締めを弾くと、おじさんは柱の影からこっちをのぞいたかと思うと、ちっさくガッツポーズをして、やはり何も言わずどこかへ歩いていきました。足取りは力強く、満足してくれた感じがして嬉しい。嬉しい・・・けども。
僕、またしてもポカーン。そしてまた考えるのです。
想いおこせば路上には他にも時々「きちんとしたお客さん」がいました。だいたいが僕を「真剣な演歌歌手見習いと間違って」500円~2000円くらいくれるお母さんたちや、20代後半で「俺は夢を諦めたから、アンタには頑張ってほしくて」という人。共通してほぼシラフ。そういう人は、だいたい足を止めずにさーっと通り過ぎていくんですが、この「さーっ」はなかなか興味深い行動ですよね。歌が良いか悪いかは関係なく「夢を追ってる(ようにみえる)ってこと自体が払う動機」って人もいるんだな、とわかります。
そして、マツコも柱の影おじさんも、「先にお金がでていた」のも変わっていました。んが?と思いました。お金って「何かをした対価でもらう」ものです。アルバイトの給料のように、何か働いてから、そうやってもらうものだと僕ずっと思ってたのです。となると、歌う前にすでに僕は「何かを与えることができてたのかな?」と思い当たります。夢追い人をサポートしたい気持が潤ったおばちゃん達のように。
おじさんは「何を僕で解決できた」んだろう。その価値は1万円だ。少なくとも路上では「お釣りで済む瞬間的なこと」とは別次元の値段だ。うーなんだろなんだろ…身に覚えを探りました。せっかく偶然とはいえ「歌ではない何か」を持ってるらしいのにー。
はたと考えると僕個人も「高いものほど、”お金を払う前にほんとは勝負がついてる”」という自覚があります。100円200円のものを買う時は『目の前にあるもので、瞬間的に解決する』という感じですよね。でも、ブランドものの服や高級車に代表される、こだわりを見せたい趣味などの世界ではそうはいきません。その商品がもつ「オーラそのもの」を買いたいんです。だからこそ簡単には手にいれにくいものほど、逆に欲しくなっていく。お金を貯めさせられる。というか「簡単に手に入ってはいけない」。なぜならそれで自分を証明できるからです。
おじさんは何を証明したかったんだろう…?
それからは弾き語りにいくたびに「これじゃないか」「あれじゃないか」と実験が始まりました。実は今回のエピソード「柱の影おじさん」は、数人のおじさんを集めたエピソードです。この実験で、それまで見逃していたたくさんの「柱の影おじさん」
と巡り会っていくことになるからです。
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次回は『第5話「路上のルール」とは逆だった http://goo.gl/bg3qb 』です
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「弾き語りのマーケッター」はベルベットオフィスが配信する「ナレーターメルマガ http://www.velvet.co.jp/merumaga/ 」で連載されました。隔週木曜日に配信、登録は無料です^^
