10月1日の終業近くに、パリの友人から、un regard moderneのジャック・ノエルの訃報が届いた。30日から1日にかけての夜間に亡くなったそうで、突然の死に誰もがショックを受けていた。
はじめてパリに行ったとき、噂に聞いてずっと行きたいと思っていたun regard moderneに、その友人に連れていってもらってから、パリに行くたび、セーヌ川をはさんだノートルダム寺院の対岸、サンミシェルのGît-le-Cœur通りに幾度となく足を運んだ。
最後の会ったのは2014年、お店を出るときに近所の画廊までの道順を尋ねたら、目当ての展示のDMをくれたうえに、簡単な地図を描いて、店の外まで出てきて、小雨の中「ここをまっすぐ行って…」と説明して見送ってくれた。まさか、それがジャックに会う最後になろうとは思ってもみなかった。
...訃報に接して、画廊Arts Factoryのロランは「インターネット普及以前、ジャックは(我々にとって)googleだった」と書いていた。私が買った本も覚えていて、しばらく間をあけて再訪したときでも、前に買った著者の新刊、あるいは駆け出し時代の自主制作本を、黙っていても出してくれた。ジャックの頭の中には、お客さんたちの購読履歴がカルテのようにつまっていて、それぞれにあわせたおすすめ本を処方してくれるのだ(そうやって、知り合いになったアーティストの若かりし頃の作品を、この店で密かににコレクションしていた)。
山中学のハードコアな写真集を編集したときは「この本をどうやって売ろう」と友人アーティストに相談すると「ジャックにまずあたるといい。彼はスペシャリストだ」との返事で、ジャックはみんなの知恵袋だった。
かつてはギャラリーだったスペースも本で埋めつくされた店内で、天井まで複雑に積み重なった本の山の中から、ジャックはジェンガのように器用に本を抜き出し渡してくれる。
超マニアックな日本のエロ劇画や中国語圏のオルタナティブコミックのアンソロジーもあって、イギリスの先鋭的な音楽誌sound projectorを見つけたのもここだった。。中国語の本をみつけて「下巻ってことは、この前にもう一冊か二冊出ているはず。この“下”って字はそういう意味なんです。あるはずだけど…見てみたいんだけど」なんて言ってジャックを少し困らせたりもした。中国語圏のオルタナカルチャーにはじめて接したのもun regard moderne経由だし、様々の国の本とこの店を通して出会った。
2010年代になってもネットやメールのない秘境のような店だったので、友人が間に入ってジャックのリクエストを伝えてくれて、自分が編集した逆柱いみりや春川ナミオの本などとあわせて店に届けると、通りに面したショーウィンドーに本を並べてくれた。
訃報に動揺して、以前「あんな本屋はほかにはないよ。ジャックは格別だよ」としみじみ語っていたLe Dernier Criのパキート・ボリノに連絡をとった。「俺は次の本をジャックに捧げるよ」という言葉に、何も捧げるものがない私は途方にくれたけど、一方で彼の「un regard moderne ne meurt jamais!!!!!!」(un regard moderne never die!!!!!)のメッセージに、ジャックの精神を心に留めて前進あるのみーーーと前向きな気持ちにもなれた。
ピエール・ラ・ポリスも次の個展をジャックに捧げるとアナウンスし、アーティストたちは、それぞれジャックへオマージュを捧げている。また、同業の書店ギャラリーLe Ment-en l’airのギョム・デュモラは「精神的な父を失った」とその業績と影響の大きさを語っている。と、同時に冒頭の友人のように毎日会社に勤めながら「モノトナスな僕の日常に本やアートは潤いを与えてくれるんだ」と休日に時間を作っては心のオアシスに通っていた常連たちの喪失感を思うと切ない。
un regard moderneの扉には、ジャックが関わってきたアーティストたちの展覧会のDMやポスターが地層のように貼り重ねられて、まるで記憶の扉のようだった。10数年前の、パリを去る際の友沢ミミヨ展のDMも残っていて、「去る者は日々に疎し」というけど、ジャックの記憶の中、あの空間には過去から現在までのいろいろなものが息づいているようで、目にするたびに嬉しかった。
un regard moderneに興味を持たれた方は、この機会に、店内をちょっと(映像で)覗いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=gLHu4bXfjN8
タコシェでも、ジャックがともに歩んできた作家たちの仕事を、今後も折りに触れて紹介してゆきます。
https://www.google.co.jp/…/data=!3m1!4b1!4m5!3m4!1s0x47e671…
中央線沿線四箇所合同 安部慎一展、無事に終了しました。ご来場どうもありがとうございました。ご好評につき合同展のセレクト展示を渋谷のアップリンクさんで開催する運びとなりました。詳しくはこちらをご参照ください。
http://www.uplink.co.jp/gallery/2016/45940
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合同展示に続いて、アベシンの代表作「美代子阿佐ヶ谷気分」の原画も展示されますが、その中の一コマ、単行本ではスミベタで塗りつぶされている美代子の表情が、原画ではうす墨の下に描かれているのがわかります。70年代のモノクロ印刷では、そのニュアンスを表現することが難しかったのか、若かりしアベシンが描かずにいられなかったのか、理由はさだかでありませんが、40年以上の時を経てオリジナルにあたることで新たな発見、新鮮な驚きがありました。
ところで、フランスでは、「アングラ」や「サブカル」の一言で括られがちな劇画やガロ系コミックも、奇特な編集者たちにより世に送り出され、アングレーム国際漫画祭で評価を受けたり、第9の芸術に加えられています。最近でも「Rêve écarl...ate」で佐伯俊男の単行本未収録作品まで雑誌から探し出してレタッチして年代順網羅を開始したエディション・コルネリウス(編集者いわく「日本にもどこにもなかった作品集を出した」)、オリジナルにあたり、新たにスキャンをして梵天太郎の選集「SEX & FUR」を出したル・レザール・ノワール(黒蜥蜴)など…旧作の再評価と出版の流れの中で、新たな印刷技術が加わり、漫画の国の私たちがこれまで見落としていたものや、見ずにいたものがまだまだ見えてくるかもしれません。
漫画原稿をモニター上で仕上げる作家が多い今日、新作コミックの原画展示の機会が減る一方で、今回のアベシンの原画展は印刷とのギャップ萌えやら、復刻の意義などに気づかせてくれる貴重な機会となりました。いま一度のアベシン展をどうぞ。
あわせて発行した作品集も、ひき続きお取り扱いしています。
http://taco.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=67097&csid=23&sort=n





























